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いまどきの音源らしく、MIDIだけでなく汎用的にUSB AUDIOとして使えるが、やはりMIDI音源であることが重要なのである。
いまや、MIDIデータからサウンドの生成もCPUが直接担当するいわゆるソフトウェアシンセサイザが当たり前で、7万円も出せばパソコンそのものが余裕で買えるというのに、なぜいまわざわざMIDI音源か?
これを説明するには、十数年前の思い出から語らなければならない。ローランドが「みゅーじ君」なるパッケージを発売したのである。今改めて検索してみたら、1988年のことだったようだ。
当時、下宿から徒歩五分の位置にあったパソコンショップでそれのデモを始めて目にしたときの衝撃は今の若い者には判るまい(もちろん年寄りにも判るまい)。
それはMT-32なる弁当箱大のMIDI音源と、音源ボード、そしてシーケンスソフトをワンパッケージにまとめたものであった。当時はパソコンといえばNECのPC-98である。私はEPSONが出していた互換機の安いのを所有していた。それには、今のパソコンには当たり前についているオーディオデヴァイスの類は一切ついていなかった(88シリーズには原始的なのがついていたし、3.5インチのフロッピーディスク搭載も出るにも付いていた。当時は3.5インチフロッピー=ゲームだったのだ)。
ところが、このみゅーじ君は、インターフェースボードを本体後ろに取り付けるだけで、98をシンセサイザーに変身させられるのであった。98の画面上に、ミキサーのようなものが現れ、マウスでつまみを回すと、自在に音程や音量を変えることができる。当時としては類例のない画期的なコンセプトであった。しかも、当時のパソコンの水準からすれば考えられない高品質なサウンドである。
私はすっかり魅せられてしまった。廉価とはいっても貧乏学生の身分ではそう簡単に買えるものではなかったが、悶々としているうちに、ある事情でちょっとした臨時収入を得、清水の舞台を飛び降りる気分で買ったのが後継の「みゅーじ郎Jr.」という製品であった。
その後2年ぐらいは、ローランドの会員登録をしてDTM関連イベントに参加したりしてかなり熱心にMIDIの扱いを研究した。パソコンからそれらしく音楽を鳴らすには、ただ通り一遍の操作をしただけでは駄目で、「ノリ」を表現するためにいろいろ工夫をしなければならない。相手はパソコンだからそれをすべて数値に還元してやるのだ。
これがなかなか面白かった。楽器演奏、特に合奏をやる人なら、「そこはもっと軽い音でやろう」などとしばしば考えダメだしするわけだが、では「軽い」音とは何なのか? それを指摘するほうも指摘されるほうも、判ったような気になるのだが、では何がどうなっていれば音が「軽い」のか。実のところ厳密に突き詰めて考えている人は(少なくともアマチュアでは)少ない。その心は音量なのか?音質なのか?発音タイミングなのか? みゅーじ君は断固としてその明快な答えを要求してくる。甘えを許してくれないのだ。アマチュアバイオリニストでもある私にとって、これは思いがけずいい訓練になったのだった。
こうして3年ぐらいはかなり熱心に遊んでいたのだが、本業のほうが煮詰まってきてそれどころではなくなり、そうこうするうちにパソコンもウィンドウスの時代に移行していた。私のEPSON機もすっかり出番がなくなり、ついに10年ほど前にMIDIインターフェースボードごと廃棄することになる。
そんな昨今だったが、とある楽器屋からのダイレクトメールが事態を変えたのであった。あのRolandが、数年ぶりに外付けMIDI音源を出す。あのRolandが!
私の財政状態は、少なくともみゅーじ君時代からは画然と改善されている。もはや行く手に障害なし! 今回は即座に楽天にアクセスである。
写真からも判ると思うが、けっこうでかい代物である。その上、USB接続にも拘らずHDD並みに外部電源も必要とする。パソコン用音源としてはかなり重量級といえる。だが、このピアノの音質は本当にかなりのものである。さすがに本物のピアノと並べて聞き比べれば敵わないだろうが、それでも紛うことなきピアノの音がする。
インターネット時代の恩恵として、さまざまなMIDIデータを無料で取得できるということがある。クラシックならClassical MIDI Archivesというのがインターネット黎明期から存在する老舗である。(10年前からほとんどレイアウトも変わらず存在し続けているのが凄い)。ここからたとえばモーツァルトのピアノソナタのデータを落としてきて再生すれば、簡単にBGMが得られるというわけだ。
もちろんMIDIデータの編集もできる。みゅーじ君当時は「シーケンサーソフト」などと呼ばれていたソフトだが、現在ではあらゆるWAVデータも統合的に取り扱えるDAW(Digital Audio Workstation)というものに進化しており、SonicCellにはSonar LEというその筋では有名らしいソフトが付属している。SonicCell本体にもキャノン端子と俗称されるしっかりしたマイク端子が装備されていて、本物の楽器の音やヴォーカルをとりこんでMIDIデータと混ぜ、ひとつの音楽データとして出力できる万全の環境が構成されるのである。
まったくウラシマ気分だ。素データの入手は格段に易しくなり、音源の性能は格段に向上し、CD-RやiPODは巷にあふれ、音ログなどというものも出てきて、DTMは昔の何倍も広範囲に楽しめるようになっているわけだ。少しの興味があれば、だれでもバーチャル指揮者やバーチャルピアニストになれる。大人の趣味としては誠に気が利いていると思う。
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