日本のいきもの図鑑(郊外編/都会編)

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私は職業柄、(私は生物学を専門とする研究職である)、実習や自分の研究の必要から これまでいろんな図鑑を見てきた。

だが、今回手にとった「日本のいきもの図鑑」 ほど読んでいて楽しいと思った図鑑は これまでにない。 その最大の理由は、 図鑑の常識に反して、本書がとっても「主観的」 だという点にあるように思う。

私がこれまでに接してきた図鑑は、 一般向けに少し「甘い」味付けを施したものも 含め、どれもなにかよそよそしく、 編者の息遣いはどれもこれも 見事に押し殺されているのであった。

専門の研究に使うためのものはまあ そうなるのも仕方がないとは思う。だが とにかく、図鑑とはひとしきり読み終わるとどっと疲れるものであり、 よほど対象の生物群に思い入れがない限り 読んでいて楽しいものではなかった。 (生物の専門職としては禁句かもしれないが、 本当にそう思うのだから仕方ない)

本書は違う。

単なる情報提供にとどまることなく、 筆者の生き物や自然環境に対する深い愛情が 包み隠されることなくダイレクトに表現されているのだ。 この人が日常どんな様子で野山に出かけて 生き物と対峙しているのか、文面から 非常に明確なイメージが浮かんでくる。

たとえばオオイヌノフグリの解説から、 この植物の命名法に関する部分を抜粋しよう。

「センスが全く感じられない。種子よりも このかわいらしい花をもとに命名するだろう普通は! こんな名前変えてしまったらいいのに」
ふつう、図鑑ではありえない文章である。

また、著者の専門との関連もあり、外来種の 侵入、生態学の「きほんのき」も知らない無知な 人間による無節操な生態系のかく乱 (典型的にはホタルの放流)に対する 強い憂慮と怒りが随所で爆発している。

このへん、半可通な自然愛好家すべての 眼前に本書をつきつけ、すべからく 目を通させたいものである。

解説のことばかり書いたが、 本書は構成も非常によく考えられていて いることも特記しておこう。 日常われわれがよく目にする生き物が、 その分類学的な位置にかかわりなく 過不足なく登場するよう工夫されている。

「あ、こいつの正体は実はこういうやつだったのか!」

という新鮮な驚きを、誰しも一つならず 味わえるはずである。

とにかく、楽しい。 ぜひ買って読むがいい。

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本エントリーの初出:チャンネル北国TV (2003-08-03)

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このページは、kojidoiが2003年8月 3日 00:00に書いたブログ記事です。

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