こういう不正確極まりない記述が蔓延するから、遺伝子に関する正しい理解がいつまでも広がらないのだ。そうでなくてもGMOだのなんだのと話がややこしくなっているというのに。
まずは朝日の問題記事を晒してみよう。
http://www.asahi.com/business/update/1205/005.html
育毛剤の新しい流れとなりつつあるのが、遺伝子レベルの研究で生まれた商品。資生堂が1日に発表した新製品「薬用アデノゲン」(店頭価格は税抜きで6500円程度)は髪の成長を促す遺伝子を増やす物質「アデノシン」を配合した。育毛剤が人の遺伝情報を直接書き換えていると読まれても不思議はない文章だ。実際にそんなことが起こっては大変だ。そして、もちろんそんな事実はない。
日経プレスリリースには もっと詳細な記事 が出ており、それによれば アデノゲンは、FGF(fibroblast growth factor(繊維芽細胞成長因子)の一つであるFGF-7なる物質の生産量を上げる作用があるとされている。FGFの実体はある種のタンパク質である。
アデノゲンはFGFの生産を担う細胞にシグナルを送って「もっと力入れてFGFをつくらんかい」とせっつく役目をしているということだ。どう贔屓目に考えても「遺伝子を増やす」というのはハッキリと誤った記述である。
確かにその物質に行き当たるまでには遺伝子レベルの研究も行なっているだろうが、そんなことはこの業界では育毛剤に限らずあらゆる研究テーマについて普通に行なわれていること。目新しくも何ともない。遺伝子のイの字も聞かれないような研究現場を見つけることのほうが困難をきわめるというもの。なぜこのタイミングでわざわざ朝日新聞がこんなニュアンスの記事を載せたのか良くわからない。
本エントリーの初出:チャンネル北国TV (2004-12-05)
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