さて、「日本以外全部沈没」である。筒井作品ならではの毒が満載の映画。
前触れなくアメリカ大陸がたった一週間で海中に没してしまう。アメリカ国民の受け入れを表明していたヨーロッパやオーストラリア諸国もその後数日以内に全て沈んでしまう。日本列島はマントル対流の干渉の結果として中国大陸に乗り上げる形になり、世界でほぼ唯一残った陸地となってしまう。各国からの難民が日本に押し寄せる。それに対して日本人は……。
それにしてもなんとも微妙なタイミングで公開されたものである。日本沈没のリメイクと重なったのは偶然なのか狙ったのか分からないが、とにかく好対照を成していることは確かだ。パンフレットを買って読んでみると原作者筒井康隆も次のような意味深なコメントを披露していた。
僕は、あらゆる意味でこの映画「日本以外全部沈没」が、このリメイク大作「日本沈没」のアンチ・テーゼになればいい、と思っています。
一見チープな画像に騙されてはいけない。この映画が表現したいのは痛烈なる皮肉なのだ。まあ表面上の「人の良さ」にだまされて現実の安部内閣を指示してしまうような馬鹿な日本人にはこの映画および原作の本質は決して理解できないであろうがな。
リメイク版日本沈没は、何ともヌルいマイホーム主義的な色合いに換骨奪胎されてしまっていた。それに対して、本作にでてくる「美しい日本」の姿はどうだ? そこに描写され続けていくのは、やはり「日本が一番」な日本人たち。しかしリメイク版が描写しようとしたような、他人を思いやり自己犠牲をいとわない人々ではない。 日本に命からがら辿り着いた外国人たちを醜く排斥していく日本人たちだ。彼らはそれをまったく疑問に思わない。自分たちは世界で一番美しい国(他の国はなくなってしまったのだから当たり前だが)のメンバーだと天狗になった醜悪な人々である。作中であまりに容赦なく外人さんたちがいじめられるので、見ているこっちがつらくなる瞬間もあったほどだ。
この作品で筒井康隆が皮肉ろうとしたのが何なのか、多言を要すまい。お気楽「時をかける少女」と連続してみただけに、その毒が尚更体にしみた。世界が沈没するのは壮大な嘘だが、この毒の元は決して絵空事ではないのだ。
その他の見所。
* 村野武範と藤岡弘、が共演。二人はそれぞれ映画版日本沈没(旧作)とテレビドラマ版で主人公の小野寺を演じていた。特に藤岡氏の演じる防衛庁長官はこの人以外考えられないぐらい嵌っていた。
* 「マントル対流と気流の相似性に気づく」田所博士。これはまさに原作からの引用。しかしその解釈が……。
* よくあれだけそっくりさんな外人さんを集められたものだ。それなりに日本語が上手いし。いるところにはいるもんだなあ。
映画館に英語をしゃべる外人さんたちが6-7人連れ立って見に来ていたのだが、彼らはこの映画を楽しめただろうか?
2007年7月8日一部加筆
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