年功序列制度は崩壊して実力主義・成果主義に移行しつつあるとか言われる一方、ワーキングプアだの偽装請負だのポスドク量産だのの問題は深刻化し一部例外的勝ち組以外は心細る一方である今日この頃、清涼剤のごとき書物を見つけた。
高橋俊介著・「スローキャリア 出世を急がない人のためのビジネス論」がそれだ。
著者の高橋俊介氏は言う。5年先10年先の長期的視野なんて考えても無駄だと。一部の上昇志向の人間の主張に惑わされて勝ち目のないキャリアアップに心血注ぐのは馬鹿馬鹿しいからやめろと。自分の本当の価値観を問い直せと。
仕事の動機たりえるのは、なにも会社で社長になることや大学で教授になることや業界ナンバーワンの業績を上げることや世界初の発明を量産することなどの「上昇動機」ばかりではない。高橋氏は抽象概念思考動機とか徹底動機とか面白い動機の例も挙げている。そうした上昇志向以外の動機で形成されるキャリアをスローキャリアと呼び、それを大切にしようというのである。
上昇志向型の人間はたいてい声もでかい。彼らが彼らが信ずるところの幸せのモデルを説くと、まるで1000人のうち900人まではそのように努力して幸せを掴んでいるんだという雰囲気が醸し出される。
だがほんとうにそうなのかと高橋俊介氏は問題提起する。
確かに仕事の先が見えないと嘆く人の中には、自分には合わない動機づけを一生懸命やっていて、合っていないからちっとも成果に結びつかないという人は相当いそうである。あげく燃え尽きる。人事ではなく、かくいう私自身の中にもそういう要素は認めないわけにはいかない。
少しの価値観の転換で実はもっと楽に楽しく充実した生活が手に入るのかもしれない。
中高年になるほど転職が難しくなるのは、脳が衰えるからではなく価値観の転換をおっくうがるからなのであり、それさえのりきれば加齢による農の衰えは問題にならないとも著者は指摘している。たしかにそうだろう。あるパソコン雑誌の投稿欄で、80歳からパソコンを始めて一般読者対象のプログラミングコンテストの常連になった男性の話を読んだことがある。要は「河岸を換える勇気」を持てるかどうかなのだろう。
印象に残った記述としては「キャリアに目標はいらない」というのがあった。企業の人事担当者でさえ3年後に自社で必要とされる人材の種類が読めないぐらいに世の中の変化は激しい。そんななかで長期目標なんかに入れ込むのは博打が過ぎるのではないかと指摘している。目標を持つならキャリアにではなく「半年後までの仕事」に対して持てとのこと。
こんばんは。
なるほど、興味深い本の紹介をありがとうございます。身の振り方の参考になりそうですな。
そうですね。身の振り方というか人生を考える上でいろいろ新しい視点が得られると思います。
読んで目から鱗を落として楽になって欲しいと思える人が周囲にもたくさんいますね。