大学2年のとき、ワイド周遊券を買って東北旅行を敢行した。 宿に泊まるのは3日に一度。他は車中泊もしくは「駅寝」だ。
駅寝。一般的にはどう呼ぶか知らないが私はこう称している。駅舎で夜を明かすことだ。
今、ふと気になって検索をかけたら こんなのが見つかった。 駅寝で正しかったようだが、横文字もあるとは思わなかった。
とにかく、この「駅寝」という行為は、都会の駅では終業時間を過ぎると追い出されてしまうからちょっとできないが、田舎の無人駅では容易だ。というか田舎駅は夜を明かすになかなか好都合な場所だ。トイレや水道は完備しているし、ジュースの自販機などもあるし、そしてなにより屋根がある。雨が降ってもとりあえず凍え死ぬ心配はない。
さて、ワイド周遊券を手にしての無計画東北旅行3日目、私は、盛岡の少し北に位置する渋民という駅で夜を明かすことにした。いよいよ駅寝デビューであった。
ここは非常に落ち着いていて雰囲気のある場所であった。文学が好きな人は知っているだろうが石川啄木ゆかりの地でもある。ただ幹線だけに夜中は貨物列車の通過がうるさいのなんの、以降「本線」の沿線での駅寝はなるべく避けるようになった。
それはともかく、早朝、シュラフに包まり待合室のベンチで寝ていた私は辺りが妙に騒がしかったために目を覚ました。
がばと跳ね起きると、あたりは人の波。数秒後に理解できたことは、駅舎がなんと早朝市場の会場になっているのであった。渋民駅はもともとは友人駅でキップの販売なども専任の係員が行なっていたようだが、既に私が訪れたときにはとっくに無人化されていた。かつては駅員が机を並べて詰めていたであろう事務所スペースも地域住民に開放され、マーケットスペースに転用されていたのであった。
数十人の人が集まっていたと思う。それが、私のシュラフを中心に半径3メートルぐらいのところだけが真空地帯となっており、そこを避けるようにマーケットプレースは広がっていた。
冷や汗掻きながらシュラフを撤収し、次の列車に飛び乗って立ち去ったのはいうまでもない。一人旅最初期の失敗談である。
本エントリーの初出:チャンネル北国TV (2003-12-14)
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