レイ・ブラッドベリ「火星年代記」: 刊行後半世紀を経てなお通用する文明批判

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本屋に立ち寄ったところ、懐かしい本が平積みになっていた。

「火星年代記」

レイ・ブラッドベリ の名作SF。ブラッドベリとはアメリカのSF・幻想文学の大御所であり、例のムーアの映画でも最近話題となった 「華氏451度」 の作者でもある。

華氏451度も痛烈な文明批判を含む名作だが、私はなんといっても火星年代記のファンだね。高校一年のときに学校図書館の本を読んで感動し、すぐに街で一番ハヤカワ文庫の品揃えの良かったK書店に自転車を飛ばして速攻で文庫本を買った。その後何度読み返したかわからない。もちろん今も手元にある。

アメリカの有人宇宙船が人類史上初の火星探査に出かけるところから物語は始まる。意気揚揚と火星に降り立った最初の3回の探検隊のメンバーたちは、火星人に警戒され、殺されてしまう。しかし、つづく第4次探検隊が見たのは、先遣隊が持ち込んだ病原体によって壊滅し、ほぼ無人となってしまった火星人の町々であった。

その後、アメリカ人たちは、どんどん宇宙船を火星に飛ばし、古い火星人の遺跡を壊し、火星を「開拓」する。最初は探検家、そのあと山師たち、そして「普通の人々」が終の住処を求めて続々火星に入植する。

ところが、地球では第3次世界大戦が勃発してしまう。火星にきたアメリカ人たちは戦争に参加するために殆ど皆地球に戻ってしまうのである。核爆弾の応酬で、地球は壊滅する。

小説はオムニバス形式の連作短編の形をとり、それぞれ登場人物や舞台が異なる。

「2003年6月 空のあなたの道へ」では、雇い主の下を離れ、続々と火星行きの宇宙船を目指す黒人たちの行列とそれに狼狽する白人たちの姿が描かれる(小説は1950年刊行だ)。

「2005年8月 年老いた人々」では、余生を火星ですごしに来た老人たちと、テレパシーで相手の思う人物に姿を変える能力を持つ火星人少年の邂逅が描かれる。老人たちはそれぞれ若いころ亡くした肉親や親友の姿で少年を独占しようとし、ついに……。

「2026年8月 優しく雨ぞ降りしきる」の舞台は、高度に発達したホームオートメーションシステムを備えた一軒の邸宅であり、そこで家事を完璧にこなそうとするロボットたちの姿が細かく描写される。そして、人物は直接的には一人も登場しない。直接には。

十時十五分。庭の散水装置が黄金色の噴水を噴出して、柔らかな朝の空気を、輝く水しぶきで満たした。水は窓ガラスに降り注いで、白いペンキを塗ってあるとないとに関わらず、等分に焼け焦げている、そのうちの西側の面を、流れ下った。その西面は、ただ5ヶ所を残して、後は一面真っ黒だった。ひとつは、ペンキにくっきりと残された、芝生を刈る男のシルエット。ひとつは、写真で見るような、花を摘もうと身をかがめた女の影。さらに、もっとはなれたところに、あの恐ろしい瞬間に壁板に焼き付けられた三つの影があった。両手を高く空に突き出している小さな男の子。そのもっと上方に、抛りあげられたボール。男の子と向き合って、永久におちてはこないボールを受け止めようと、両手をかかげている女の子。
火星人との邂逅を通して描かれるのは、単一の価値観のみを信奉し、それとは異なる価値観が存在することに気付こうともしない「アメリカ的な」正義への疑問である。そして、いつまでも一つのせまい問題意識から抜け出せず徒に年を重ねていくことの空しさ。物質的な繁栄を永久に続くものと信じて右往左往する人々の愚かさ。26あるそれぞれの短編が様々なことを読者に問い掛けてくる。

長らく入手困難だったらしい。あらたに増刷された今こそぜひ皆に手をとって読んでみてもらいたいと思う。

amazonで入手可能なブラッドベリの著書


本エントリーの初出:チャンネル北国TV (2004-07-22)

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このページは、kojidoiが2004年7月22日 00:00に書いたブログ記事です。

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