NHKのオリンピック特集を見た。金メダルを取った北島選手の楽屋裏の話にはただ驚くしかなかった。
なんという綿密な作戦、そして情報処理技術だろう。北島選手のバックにスポーツ科学だけでなくコンピュータや画像解析のプロもいて多角的な戦略策定をしているのは新聞で読んで知っていた。それでも、今日のテレビ番組で語られた本番のレースをめぐる高度な攻防には唖然とするよりほかなかった。
競争相手の泳ぎも隙なくチェックしているのだ。いつも19掻きでゴールインしているライバルが今日は20掻きでゴールインしたと気づく。相手は緊張していると推論する。北島選手に前半をちょっとだけ飛ばせと指示する。……ここまでで2回驚いた。まず相手選手の泳ぎを常日頃からすべてチェックしているという事実。オリンピック以前からのすべての映像データがなければ「いつも……」という考察は不可能だ。しかも膨大な量になるはずのそのデータをリアルタイムで作戦作成にいかせるよう全て消化し、脳内メモリに保っているわけだ。
「前半をちょっと飛ばせ」
ちょっと、といっても百分の一秒単位での話なのだからすごい。まず泳ぎのペースを泳ぎながら自分で認識できるというだけで既に想像の粋を超える。ストップウォッチを見ながら泳ぐわけでもあるまいに、どうしてそんなことが認識でき、しかもペースを制御できてしまうのか。見当もつかない。
決勝戦。ライバルがいつもとは違い「左側から」位置についたとコーチ陣が気づく。またもや情報処理技術の炸裂である。普通そんなの気にするか。いったい参謀たちはいくつの項目を同時にチェックしているのだろうか。ここで紹介されたのはほんの一部に過ぎないに違いないのだ。
私は思った。 あれは私が見知っているところの「水泳」ではない。何か別のものなのだ。世界の舞台で百分の一秒を競い合うというのは、やっぱり選ばれた一握りの人にしかできないのだ。
本エントリーの初出:チャンネル北国TV (2004-08-30)
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