放送大学北海道学習センター所長 冨田房男氏がBiotechnology Japanのメルマガにまた寄稿している。 氏は以前から何度か北海道庁農政部の頑迷な施策を強く批判しつづけている。当該部局は遺伝子組み替え植物栽培を研究所敷地内での試験栽培という形ですら出来なくしようと画策している。研究の停滞が心配されており、研究者として冨田氏はこの風潮に強い危機感を抱いている。
私は、これまで我が国の食料自給率の低さ、農業政策の貧困、特に北海道農政部の農業施策が時代逆行であること、農政部道産食品安全室は、イメージばかり気にして科学的な根拠のない食品安全策とも言い難いものをやろうとしていることの批判をしてきた。(中略)その最たるものが、昨年からの一連の「遺伝子組換え作物の栽培試験に係る」動きだ。全く科学的な根拠のない風評を恐れ、これを受けいれることで「風評」を行政の認めた「定評」としてしまったガイドラインの策定であり、これを基にした現在の条例化への動きだ。
また、ここで最近出された滋賀県と岩手県のガイドラインと北海道のそれとを比較してみると北海道の対応が著しく偏っていることが明らかとなる。私にとって最も気にかかるのは、「遺伝子組換え作物に対する現状認識」である。 ○滋賀県(ガイドライン8/20)には、「遺伝子組換え技術は、バイオテクノロジーの中核的技術として大きな可能性をもち、食糧問題や環境問題等を解決する上でのキーテクノロジーとして位置づけられる。」 ○岩手県(ガイドライン9/14)には「遺伝子組換え技術などのバイオテクノロジーは、農林水産業、食品工業等の産業振興を図る上で極めて有用であり、安定した食糧生産、環境調和型産業の創出などにつながる重要な技術として研究開発が進められてきているが、遺伝子組換え食品に対しては、全国の消費者を対象とした意識調査において食品として不安との回答割合が高いなど、多くの消費者が不安に感じている状況にある。」 ○北海道(ガイドライン3/5)では、「遺伝子組換えなどバイオテクノロジーの研究開発は、将来的な本道の産業振興に有用であり、積極的な取り組みが必要と考えている。」とあったものが、条例案(8/7)では、これらバイオテクノロジーに関する重要性の意識が全く消滅していることである。
つまり、道庁は、バイオテクノロジーは必要がないとしているのか、組換え技術は不要であると言っているのに等しい。しかも研究栽培すら原則禁止とするもので、滋賀県のガイドラインが輝いて見えるのは全く困ったことだ。筆者の冨田房男氏はベンチャー企業A-HitBioの技術アドバイザーとして 「遺伝子組み替え作物使用を正面きって宣言した納豆発売!」 のエントリーで紹介した遺伝子組み替え納豆の製作・販売を主導した人物でもある。 同社のプレスリリース からも伺えるように、これは商売というより、やたらGMOを敵視し「自然な」食品を有り難がってばかりいる日本の消費者への問題提起として販売されたもの。アンチGMO派の冷ややかな視線を尻目に、 注文は殺到したとのこと (まだまだ日本の消費者も捨てたものではない)。
また、遺伝子組み替え敵視に「なんとなく不安だ」以上の科学的根拠が何らないことは私も何度か指摘してきた。遺伝子組み替え作物の持つ潜在的危険性は、非組換え作物のそれを超えるものでは有り得ない。
- あらゆる農作物が実際には「遺伝子組み替えされて」現在に至っているものであること(単にいわゆる遺伝子工学的手法を使っていないだけ。品種改良の過程で遺伝子組成はぐちゃぐちゃにされている)。
- 「種の壁」を越える遺伝子の流動も自然界で頻繁に起こっていること。
更に、道庁がこのような施策をとる理由を考えてみた。「その根拠をもとめてホームページから農政部の政策を見た。農政部は、「クリーン農業」を北海道は実行するのだと決めているようだ。過去10年にわたり、この政策を続けている。しかし、それで得られた経済効果は全く見えていない。」と述べた。このあと、北海道が採った農政はまるで客観的にその実効性を検証されてこなかったことをさまざまな公文書を引用して指摘し、道が固執してきた政策、すなわち“「クリーン農業」と「有機農業」は推進すべきもの、一方、組換え作物は、禁止すべきものとする政策”が間違いだと断じている。
科学的にも経済的にもアンリーズナブルな方針に固執する人々がいつまでも頑張っているのは何故なのか。遺伝子組み替え作物が普及すると金儲けが出来なくなって困る人々が背後に居るということなのであろう。生産現場を「聖域化」して、手間暇かけてつくった作物のみが人の健康を維持せしむるのだということにしておかないと、高い野菜を都会人に売りつけられないからね。
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本エントリーの初出:チャンネル北国TV (2004-10-02)
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