若手研究者の「海外武者修行」に旅費

| コメント(0) | トラックバック(0)

文科省はまたしても金の使い方を誤ろうとしている。

若手研究者の海外渡航が減っているのは、旅費に困っているからではない。それほどのメリットが感じられなくなっているからに他ならないのだ。それがどういうことなのか、考えてみるがいい。

http://www.asahi.com/politics/update/0608/TKY200906080292.html

研究者の「武者修行」を支援します――。研究目的で3カ月以上、海外に滞在する若手研究者に対し、文部科学省が航空運賃や滞在費を支給する事業に乗り出す。日本学術振興会に300億円の基金を設置、今夏にも公募を始める意向だ。09年度補正予算に盛り込まれた科学技術振興費の一環で、5年間で1.5万~3万人の支援を見込んでいる。

http://www.asahi.com/politics/update/0608/TKY200906080292.html

日本の大学や研究機関から1カ月以上にわたり海外の研究機関に派遣される研究者の数は00年度の7674人をピークに減り続け、06年度は4163人。今年の科学技術白書は初めて、若手研究者の「内向き志向」を指摘した。文科省は「内向き志向を少しでも変える呼び水になれば」としている。

「内向き志向」の理由は主に二つある。

まず、インターネットの普及により最新情報が容易に世界中のラボと交換できるようになったことだ。とくに電子メールとWWWの力は絶大である。少し前まで、最先端のラボから出た論文を手に入れて読みたいといった場合、まずは先方に「別刷り請求」というハガキを出すのが一般的であった。これに対して請求を受けた方はポケットマネーでそれらの人々に論文のコピーを郵送するのである。もちろん図書館経由という場合もある。この場合は図書館の事務室に文献複写依頼というのを提出すると、職員がその雑誌を購読している機関を調べ、コピーの依頼を出し、ということを手作業で行うわけである。筑波大の場合で、依頼書を提出してからコピーが手に入るまでにだいたい2週間を要したと記憶している。今は、多くの雑誌がPDFをオンライン提供していて、その場で文献を印刷してしまえるのだ。古式ゆかしき別刷り請求など今はまず使われない。

メールも学術界に本格的に普及したのは95年のインターネット普及開始以降であり、2000年前後ではまだまだ電子メールを毛嫌いして使わないという中高年の先生方も珍しくはなかった。むろん、中学生ですら普通にメール交換をする現在、これらは完全に過去の話となっている。それどころか、状況によってはテレビ電話すら無料で利用可能だ。

そうなってくると、情報という点では何も海外のラボに入り浸る必要もないし、実験環境さえ何とかなるのであれば日本にいた方がよほど効率的だという判断も現実的になってくるのである。

二つ目の理由は、海外に行ったが最後日本に戻ってこれなくなる可能性への懸念であろう。いまや研究者の常勤職は減る一方だ。常勤も大抵3年くらいの期限付きであり、このところの研究者は常に求職状態だ。いい職にありつくためには、多分にタイミングやコネの果たす役割が大きい。海外にいては、耳より情報を察知して素早く求職に動くことがどうしても難しくなる。

海外に出て箔をつけて帰ってくれば日本でも相応のポストが待っているという古き良き時代の状況に今の我々はいない。そのへんの状況の変化を考察した上で「武者修行」を支援とか言っているのか? 支援内容が旅費という話になっているようでは、残念ながらそういう意識はないのであろう。

一方で今の旧国立大の財政状況は惨憺たるありさまと聞く。人件費の圧迫が義務として課せられているため、定年退官した教授の後釜を非常勤職員で埋めるといった対応が日常化している。設備の維持・管理にかかわる金も不足している。国立大時代からひどかったのだが、独法化がそれをさらに悪化させている。今日の朝日の別記事でも述べられていたように、40年前の実験器材をだましだまし使っているがもう限界に近づいているなどという話がごく普通にあるのだ。

その辺を何とかして、むしろ海外から日本に武者修行にやってくる人を増やし(すなわちそれだけの魅力ある研究環境を作り)、国内にトップラボを涵養するのが本来の「支援」の在り方ではないだろうか。そこはほったらかしで、海外に出て武者修行して来いでは、技術立国の名が泣くというものだ。

いつまで木に竹を接ぐような中途半端な「支援」ばかり続けるつもりなのだろうか?

トラックバック(0)

トラックバックURL: /509

コメントする

このブログ記事について

このページは、kojidoiが2009年6月 9日 00:37に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「インフルエンザ無意味に騒ぎすぎ」です。

次のブログ記事は「エヴァンゲリヲン」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

アーカイブ

Powered by Movable Type 5.01

2015年12月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
  • アクセス管理
    人気ブログランキング - testブログ あわせて読みたい

    アイテム

    • AropbKZCMAAk6mG.jpg
    • P1000323_crop.JPG
    • P1000343.JPG
    • P1000342.JPG
    • P1000335.JPG
    • IMG_0491.JPG
    • IMG_0487.JPG
    • IMG_0485.JPG
    • IMG_0483.JPG
    • P1000319.JPG